ミュージカル『メリー・ポピンズ(2018)』(@梅田芸術劇場メインホール)は、メリー・ポピンズはじめ出演者が作り出すとびっきりの魔法世界、絵本さながらのキュートな世界に浸ってきました。
『メリー・ポピンズ』は、世界的大ヒット作:映画『メリー・ポピンズ』を基にしたミュージカル。
原作はP.L.トラバース、プロデューサーであり共同創作者はあのサー・キャメロン・マッキントッシュです。
オリジナル音楽&作詞は、リチャード・M・シャーマン&ロバート・B・シャーマン。
彼らの手掛けたディズニー映画は数知れず、あの「イッツ・ア・スモール・ワールド」は彼ら兄弟の描き下ろし曲です。
振付は世界的な振付家:サー・マシュー・ボーン。
そして、今回、彼らとタッグを組んだのはホリプロ。
『ビリー・エリオット』をはじめこれまで良質なミュージカルを提供してきたホリプロが本気で取り組んだミュージカルなのですから素晴らしくないわけがありません。
まるで子どもの頃あこがれた夢の世界
舞台に現れたのはまるでスケッチブックにチャコールペンシルで描かれたかのようなモノクロームの世界。
それが一度幕が開くとバンクス邸がセリ出てパッと両側に開かれるとそこは暖かく楽しい世界。
たとえパパがちょっと気難しそうで、ママがちょっと頼りなげでも。
思わず「わあ~」と歓声を挙げたくなるほど鮮烈なスタート。
この感覚、ずっと昔に体験したことがあるような。
「ああ、これは子供の頃欲しくて欲しくて仕方なかったシルバニアファミリーの大きなお家!」
「甥や姪が大好きだったポップアップ絵本!!」
こんなの大好きに決まってます。
ちょっとノスタルジックを感じながらもワクワクが止まらなくなる不思議な感覚。
長い長いオーディションで選ばれたキャストは誰もが素晴らしく、いつまでもそこにいたくなる夢の世界がそこにありました。
なんでもでてくる不思議なカバン、動き出す彫像のネーレウス、描いた絵からポンと飛び出る花束。
どのシーンもビビットなカラーに溢れ、まるで絵本の世界に迷い込んだかのよう。
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」など聴いているだけで楽しくなる楽曲、自分も立って踊りたくなるようなダンスに圧巻のタップ。
振付のジェフリー・ガラットが「この公演自体が魔法みたいなもの」と言ったのも納得。
そして、楽しさの中に「何を言うかではなく、どう言うかが大切」など、心に沁みる名言の数々が散りばめられていました。
レゴでミュージカル『メリー・ポピンズ』
元気になるのは子供たちだけじゃない!
「ママは子供たちをメリーに取られて寂しくないのかな?」とツイートされている方を見かけ「そうなの?」と少し心配になりましたが大丈夫!子供たちは最初から最後までパパとママのことが大好き。
菜々子ジェーンと彰良マイケルはパパとママが好きでたまらないのに、自分のことで精一杯で子供たちのことがまるで見えていないパパとママにちょっとすねてしまっているだけ。
とても魅力的なのに上流社会に馴染めない花代ママは少し自信無げ、上流階級なら子供は子守りに任せるものだと自分に言い聞かせようとしている。
本当はとても優しくてちょっぴり気が弱い山路パパも絶対だと思っている規律と秩序に捉われ、自分の本当の心を閉じ込めてしまっている。
そのせいで子供たちが寂しがっているのに。
濱田メリーの「ひとさじの砂糖♪」で子供たちの心がほどけていく、すれ違っていた家族の心が合わさっていく。
子供たちの変化がパパとママの心を変え、パパとママの変化が子供たちをさらに変えていく。
パパとママも幸せにならなければ子供たちだけで幸せになれるわけがないのだから。
メリーの魔法で幸せになるわけではなく、自らの力で幸せになっていくバンクス家のみんなは素晴らしい。
人生の中の「ひとさじの砂糖♪」ってなんでしょう?
愛? 思いやり?それとも両方?
これからの人生いつも心がけたい「ひとさじの砂糖♪」
そうすれば変わり映えしない人生の何かが変わるかもしれません。
濱田メリー・ポピンズと大貫バート
濱田メリーの良く通る声、調子の良い「サササッ」の響き。
格段に手数が多くスピーディーな振付やダンスはかなり大変なはずなのに見事な身のこなしはまさしくメリー・ポピンズ!
世界最長のフライングではまるで手が届きそうなところにまで降りてきてくれ。
キラキラと舞い散る星とともに現れて星と共に去って行く。
濱田メリーが去ってしまっても、その言葉の数々は残っています。
「なんだってできる、自分さえ邪魔しなければ」
「何を言うかではなく、どう言うかが大切」
濱田メリーが言うと説得力がありますね。
今回もっとも注目していたキャストが大貫バート。
製作発表時、ひそかに「バートがいる!」と思わず呟いたわけですが、それは間違いではありませんでした。
大貫バードほど楽しそうに歌い演じ、踊り、タップを踏む人を見たことがありません。
「しゃべるようにタップを踏み、踊る。芝居の延長ということを意識して動いていきたい」とインタビューで語った通りのことを実際にやってのけたその技量。
「ステップ・イン・タイム」はまさに絶品!
日に日に絶賛の口コミが多くなったのも無理はありません。
これはもう少し早く観るべきだったと後悔。
絶賛の口コミに、少しのジェラシーと大いなる羨望の念を持ちつつ大きくうなづく日々。
気になる人がいたなら、メリーの言うとおり「サササッ」と観るべきでした。
大阪公演あと🌸11公演🌸
— ミュージカル『メリー・ポピンズ』 (@marypoppinsJP) 2018年5月29日
「一回一回大切に頑張ります!」#メリーポピンズ#大阪#大貫勇輔 pic.twitter.com/Ki0alDopYr
ちょい役ながら新アンジョルラスの小野田ロバートソン・アイにも注目。
確かに、これは小野田さんの無駄遣いと言われるのも仕方ないですね。
しかし、これほどコミカルな演技ができる方だとは思いませんでした。
突然響く美声はさすが、これから出演予定の『タイタニック』『レ・ミゼラブル』が楽しみです。
愛を乞うひと - バード・ウーマン
清らかな声で歌われる「2ペンスを鳩に」
ストーリーにまったく関わってこないのに、これほど記憶に残るのはやはり島田歌穂さんだからこそなのか。
これがおとぎ話なら『美女と野獣』のように美しい魔女か女神さまが老女に身をやつしているパターンのはず。
もっとも弱い者の姿で人の善意を試すあのパターンです。
バード・ウーマンの中身はミス・アンドリューだからちょっと違うみたい。
だけど、歌穂さんが演じているわけだからやはり女神さまでしょうか。
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」も「チム・チム・チェリー」も名曲ではあるけれど、観劇後の帰り道口ずさんでいたのは「どうぞ小鳥に 2ペンス 2ペンス この餌を♪」でした。
ウォルト・ディズニーは、『メリー・ポピンズ』を名作にするにはこの曲が必要だとシャーマン兄弟と正式に契約を交わしたといいます。
最初「気味が悪い」と言っていたマイケルは2ペンスを出して餌を買おうとします。
その後、山路パパも自分が大変な時なのに餌を買う。
マイケルが2ペンスを差し出した時にすでに変わろうとしていた、パパも2ペンスを差し出した時すでに心を決めていた。
たった2ペンス、2ペンスだけどあのお金は愛そのもの。
「身なりで人を判断しはならない」というメリーの言葉を実践しようと2ペンスを差し出すマイケルをメリーは止めたけど、後でそのお金はジェーンとマイケル2人の手で山路パパに渡されます。
2人合わせて12ペンス・1シリングは2人の手からパパの手に。
小さな2人の愛でもパパを奮い立たせるには十分だったはず。
「空には鳩が舞う
聖堂の回り 神のしもべが
見下ろしている
そのほほえみ 心優しい人たちを見てる
言葉少なくても 静かに呼びかける
餌をあげましょう
2ペンス 2ペンス 一袋」(@原詞より)
『メリー・ポピンズ』で小鳥はとても象徴的なシンボルなのかもしれません。
ミス・アンドリューは小鳥を鳥かごに閉じ込め、メリー・ポピンズは自由にしてあげる人だから。
ミュージカル『メリー・ポピンズ』はきっと何かが見つけられるミュージカル。
日本での上演は6月5日まで。
公演詳細
東京:東急シアターオーブ
3月18日~5月7日
大阪市:梅田芸術劇場メインホール
5月19日~6月5日
公式サイト
https://marypoppins2018.jp/index.html
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