ミュージカル『シークレット・ガーデン』感想、荒れ果てた庭から花園へ家族再生の物語

シークレットガーデン6月14日撮影
シークレットガーデン6月14日撮影【写真転載・無断使用厳禁】(の)

ミュージカル『シークレット・ガーデン』の物語の舞台は、どこまでもムーア(湿原)が広がる荒れ野の彼方、イギリス北部に立つミッセルスウェイト邸。

「ヒースやハリエニシダ以外は何も育たない野生の土地が、何マイルも何マイルも。住んでいるのは野生のポニーか羊ぐらいのものよ」
「あの恐ろしい唸り声みたいなのは何?」
「風ですよ、茂みを通りにける風の音。ヒューヒューって」


この台詞から『秘密の花園』ではなくエミリー・ブロンテの『嵐が丘』を思い起こされる方も多いだろう。
どちらもムーアの荒れ野が舞台の物語であり、今は亡き愛する人の霊が重要な鍵となるのも似ている。
だが、『嵐が丘』が破滅へと誘う物語であるとすれば、『秘密の花園』は力強い光へと導いてくれる物語だ。








6月14日16時公演 キャスト


アーチボルド:石丸幹二
リリー:花總まり

ネヴィル:石井一孝
マーサ:昆夏美
ディコン:松田凌

メアリー:池田葵
コリン:大東リッキー

ベン:石鍋多加史
ローズ:笠松はる
アルバート:上野哲也

大田翔 鎌田誠樹

鈴木結加里 堤梨菜 三木麻衣子

6月14日16時公演はキャスト変更によりメアリー役は池田葵であったため書き直させていただきました。
シークレットガーデンポスター.jpg
シークレットガーデン6月14日撮影【写真転載・無断使用厳禁】(の)

原作は児童文学の金字塔『秘密の花園』


ミュージカル『シークレット・ガーデン』の原作はフランシス・ホジソン・バーネット作『秘密の花園』(1911年)
マーシャ・ノーマン(脚本・詞)とルーシー・サイモン(音楽)が1989年ミュージカル化、その年のトニー賞で脚本賞、助演女優賞、装置賞の3部門を受賞した名作ミュージカルだ。

イギリス領インドで育った10歳の少女メアリーが、イギリス・ノースヨークシャーに住む伯父のアーチボルドに引取られることで従弟のコリンが、アーチボルトが変わっていく。

登場人物はそれぞれ何かを失い、何かを追い求めているつつも抜けられない迷路、隘路に行く手を塞がれている。
秘密の花園を再生するのと歩調を合わせるかのようにそれらの人々が再生されていく。
その再生の過程は固唾を飲んで見守る観客にも大きな感動をもたらしてくれるだろう。



よどみない素晴らしい演出


ミュージカル『シークレット・ガーデン』の演出はスタフォード・アリマ。

どうしてメアリーだけが生き残ったのかが非常にわかりやすくまとまっている。
一人生き残ったメアリーが伯父のアーチボルドに引取られ、さまざま人と出会い、秘密の花園を生き返らせる、それぞれのエピソードが流れるように進んでいく。
よどみないその演出にこの上ない心地良さを覚えた。

舞台上に組まれたセットは、邸の壁に見えたかと思えばツタの生い茂った生垣にもなるなど、シンプルながら自由自在にその姿を変える。
最後にとりどりの色を取り戻すシーンは実に感動的だ。

実は前回の来日公演で花園が美しくなかったと聞き一番気になっていたのがこの花園のなのだが、そうかこの手があったかと感嘆した。
美しい花園が出現した時、メアリーは明らかに客席を指さしている。
とりどりの色で照らし出されるセットはただのシンボルに過ぎず、本当の花園は客席に、観客の胸の中にあるということか。

誰かが作った花園であれば批評できたとしても、自分が思い描いた花園を批評できる人は少ない。
それならば、そこに観客の誰もが納得する素晴らしい花園が現出したことになる。
スタフォード・アリマは、舞台作品でもっとも重要な役割を担うのが演出家だと思いださせてくれた。



いくえにも重なるハーモニー


冒頭、ブランコに乗り歌いながら登場するリリー(花總まり)。
幽霊よりもまるで妖精か女神といった美しさだ。
清らかな声でやさしく歌われる「おいで~庭へ~♪」のフレーズは、全編を通じてやさしくリフレインし終演後も頭から離れない。

『シークレット・ガーデン』には、花總をはじめ石丸幹二、石井一孝、昆夏美、上野哲也と、日本のミュージカル界支える歌唱力・演技力にすぐれた錚々たるメンバーが出演している。
迫力がある「Lily’s Eyes」や「Winter’s On the Wing」などのナンバーを聴くだけでも劇場を訪れる価値がある。
だが、『シークレット・ガーデン』の魅力はそれだけではない。

一人一人素晴らしい実力を持つ俳優が一人、二人、あるいは全員で一つの歌を歌い継ぎハーモニーを重ねていく。
下に上に、あるいは横にと広がったハーモニーがまた一つにまとまっていく。
まるで出演者全員でつづれ織りの織物を織り上げているかのようだ。

そのハーモニーを支え、心地よいアレンジを聴かせてくれるのは音楽監督の前嶋康明。
終演後、カーテンコールにも登場してくれた。


ロンドン版シークレット・ガーデン(フィリップ・クワスト)


喪失感に苛まれつつも父性溢れるアーチボルド


石丸幹二演じるアーチボルドは、腰をかがめてはいるもののとても皆から忌み嫌われ遠ざけられる存在に見えない、その仕草は優美ですらある。

もともと原作でも背中が曲がっているだけと書かれていることから、アーチボルドは自分のハンデにことさら悲観的になっているだけなのかもしれない。
自分を唯一愛してくれたリリーを失い、息子を失うかもしれない恐怖から偏屈になってしまっているアーチボルド。

それでも人一倍愛に溢れているのがアーチボルドなのではないだろうか。
これほどやさしく愛してくれる人なら、外見はどうであれリリーが好きになるのも当然かもしれない。
まるで「美女と野獣」のように。

眠る息子に歌って聞かせる「Race You To the Top of the Morning」
ドラゴンと戦うお話をなぜ起きている息子にしないのかともどかしくなる。
これほど父性愛溢れる彼が直接コリンに語りかければ、彼を悩ませる問題の何割かは解決するはずであるのに。

アーチボルド、彼もまた息子やメアリーと同じ迷い子なのだ。



花は愛、君は種


メアリー役の池田葵も好演。
冒頭から終盤までほぼ出ずっぱりにもかかわらず、熱量の高さを維持し終始気の強いメアリーを演じてくれた。

インドを襲った悲劇の中、たった一人生き残った強い強い子。
アーチボルドやネヴィル、ミセス・ウィンスロップにも堂々と反論する様は小気味良い。

アーチボルドとリリーが育てた花は愛の結晶。
もう一度咲かせるには強い強い種子が必要だったのではないか?
「おいで~庭へ~♪」のあのフレーズ、今は亡きリリーがメアリーを呼び寄せるフレーズなのではないかと思えてくる。

メアリーを見守るドリーマーズも大活躍。
摩訶不思議な雰囲気を醸し出している苦行僧ファキール(大田翔)を筆頭にインド映画かと見紛うほど。
『秘密の花園』が書かれた1911年当時インド人は魔法が使えると本気で信じられていた、そのためドリーマーズの力を借りてメアリーが奇跡を起こしたとしてもあまり不思議に思われなかったのだろう。

ドリーマーズが登場すると過去と現在が交差するが時間の経過がわかりやすい。
これも演出スタフォード・アリマの手腕によるものか。



お庭の仲間たち


見守ると言えば、ミッセルスウェイト邸で出会ったメイドのマーサ(昆夏美)もそうだ。
昆夏美はいつの間にこれほど素晴らしい女優になったのだろうか。

訛りながら話す昆はかわいく魅力的で存在感も抜群。
メアリーと言葉のキャッチボールをしながら上手く良い方向へと導いてくれる。
マーサと庭師のベンに見守られながらメアリーの心がほぐれていく。

特質すべきは松田凌ディコンの存在だ。
「(アーチボルドの)土地にいるはずなのにすぐに出会うことはできないが、会いたいと思えば会うことができる、話をよく聞けば良いことが起こる」、この設定まるでトムテ(妖精)のようだ。

『ニルスのふしぎな旅』などに登場するトムテは、子供みたいに無邪気で心優しい妖精。
農家の守護神で土地に繁栄をもたらしてくれる。

まるでトムテそのままのような松田ディコンだが、松田凌はどれほどの思索と努力を重ねてその雰囲気を手に入れたのだろうか。


オリジナルブロードウェイキャスト版シークレット・ガーデン


評価のわかれるネヴィル


悪人なのか気の毒な人なのか、ミスリードを狙ってのキャスティングなら石井一孝ほど適任者はいない。
悪役に思えたとしても、石井自身の暖かさが透けて悪人に見えない。

ただ、ミセス・ウィンスロップが外の殺風景さを嘆いた時、「この邸は外の景色を追い出している(から大丈夫)」と答えたのが気になった。

ミッセルスウェイト邸の中で、ネヴィルだけがまったく秘密の花園を気にもかけていない。
家のため家族のためと言いながら、アーチボルドやコリン、メアリーの言葉も聞いていない。
今の日本によくいるタイプだ。

アーチボルドにとって、ミッセルスウェイト邸は家督を継いだらもれなく付いてきただけのもの、グリコのおまけほどの価値もなさそうだ。
ところが、ネヴィルは自分が継ぎたかったと言う。


オーストラリア版シークレット・ガーデン


邸に住む人やその人の思いやりなどではなく外側を欲しがるネヴィル。
もしかしたら、もっとも抜け出ることが難しい迷路で迷子になっているのはネヴィル自身かもしれない。
ラスト、アーチボルドのネヴィルへの気遣いが心に沁みる。

今の日本、閉塞感に苛まれ道に迷っている人は多い。
人生の途上行く道に迷い困っている方は劇場に訪れてみてはいかが。
もしかしたら秘密の花園への鍵が見つかるかもしれません。
(の)




明日の厚木公演を皮切りに、ミュージカル『シークレット・ガーデン』地方公演がスタート。

公演日程


【神奈川公演】
■日程:2018年7月14日(土)~7月16日(月)
■会場:厚木市文化会館
■公式サイト:http://atsugi-bunka.jp/

【福岡公演】
■日程:2018年7月20日(金)~7月21日(土)
■会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
■公式サイト:http://kurumecityplaza.jp/

【兵庫公演】
■日程:2018年7月24日(火)~7月25日(水)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
■公式サイト:http://www1.gcenter-hyogo.jp/

クリエちゃん.jpg
シークレットガーデン6月14日撮影【写真転載・無断使用厳禁】(の)

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この記事へのコメント

  • 6月14日の18:00公演のメアリー役は、上垣ひなたさんではなく、池田葵さんでした。
    演出の都合上、メアリー役が変更と劇場に貼り紙がありました。
    2018年07月14日 00:00
  • ミューライフ編集部


    >さん
    >
    >6月14日の18:00公演のメアリー役は、上垣ひなたさんではなく、池田葵さんでした。
    >演出の都合上、メアリー役が変更と劇場に貼り紙がありました。

    お教えいただきありがとうございます。
    早速書き直させていただきました。
    今後ともよろしくお願いいたします。
    2018年07月14日 17:54